社会科教育課程研究会 公式ブログ

社会科に関わる小・中・高・大の教員の研究会です。毎月第3土曜日に、都内各所で例会をやっています。

神戸大学附属中等教育学校での実践報告(6月・10月)

神戸大学附属中等教育学校は、文部科学省から「歴史総合」・「地理総合」の研究開発学校に指定されています。本会幹事の藤野明彦(東京都立杉並総合高等学校)と大木匡尚(東京都立府中高等学校)は、6月21日および10月21日に行われた同校の研究発表会(運営指導委員会)において、全日制課程普通科以外の高等学校における新科目「歴史総合」の部分的先行実践報告を行いました。

 

①令和元年度 第1回研究発表会(6月21日、神戸大学附属中等教育学校

全日制課程総合学科における「歴史総合」の部分的先行実践の報告を行った藤野は、従来から藤野が主張する世界史Aの方法論を活用して授業づくりを行うべきである旨の報告を行いました。藤野は「日常生活や身近な存在に見られるもの(RockやPopsの音楽やNews報道、映画、漫画、イラスト、絵画や最近ならRPGなどのゲームやアニメーション:個人的には受け入れがたいが)の読み取りを通して、時間的な推移や空間的な結び付きの中で歴史とつながっていることを理解させたい」と述べて、新教育課程での「歴史の扉」を意識したオリエント地方の歴史を「串刺し」にした実践例を報告しました。

 

②令和元年度 第2回研究発表会(10月21日、神戸大学附属中等教育学校

前任校の定時制課程専門学科(農業科)における「歴史総合」の部分的先行実践の報告を行った大木は、生徒の生活実感をベースにした「実用主義」の歴史教育の可能性を主張しました。アメリカ独立革命の前提条件として、「七年戦争において、議会が債務保証したイギリスと、ブルボン王家の信用力を背景にしたフランスと、あなたが投資先を求めるオランダ資本家であれば、どちらに融資するか?」という主発問を軸に展開した2019年1月18日の研究授業の概要を報告しましたが、「実用主義歴史教育によって生徒のレリバンスを高め得る学習効果が窺える半面、生徒が現代的な価値観によって判断してしまう可能性があるという課題も改めて提起しました。大阪大学桃木至朗先生からは、アメリカのナショナル・アイデンティティの萌芽に関してズレがあるのではないかというご質問もありましたが、このあたりはある程度使用教科書に「忠実」に授業している点であり、もともとは思想史を専門とする授業者としても忸怩たるものがあると率直に答えました。歴史の叙述、歴史像は、文字通りグローバルに描こうとすればするほど、授業において単純化・明確化ができなくなり、対象とした定時制課程専門学科の生徒の理解と乖離が生まれてしまうという悩みがあります。結局のところ、歴史「を」教えるのか、歴史「で」教えるのかという立場の違いに行きつくようです。

なお、運営指導委員の先生方からは、定時制課程専門学科の生徒を対象とした、おそらく見たこともないような生徒を対象とする授業の報告であったため(生徒諸君、失礼しました)、「なぜ歴史の授業をおこなわねばならないのか/学ばねばならないのか」といった授業の本質に迫るご発言もあり、この点については報告した甲斐があったと思えました。「歴史総合」の部分的先行実践は、すでに3年余り、折に触れて行っておりますので、授業者(報告者)としても、なるべく早く全体像を皆さんにお示しする必要があると改めて思いました。

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新科目「歴史総合」は、決して世界史と日本史とを「統合」したり「接続」したりすれば出来上がるものではないと考えています。歴史学を専門とされる方の様々な「歴史の叙述」を生かしつつ、戦後世界史教師が積み上げてきた「世界」をどのように描くかという課題の蓄積を踏まえて成しあげるものと考えています。これからも、「授業で汗をかき、報告で恥をかき、論文等を書く」生活を続けていきたいと考えています。